俺が大阪の岸和田に出張した時の話だ。
コロナと言えばコロナビールの頃で、当たり前に酒が飲めた頃だった。
俺は仕事を終えると、同僚と連れ立って繁華街へ向かった。
雰囲気の良さそうな個人経営の居酒屋を見つけ、暖簾をくぐる。
生ビールで喉を潤すと、俺はマスターにおススメを聞いた。
彼は「ガッチョの唐揚げ」がこの辺りの名物だと答え、ガッチョとは関東で言うメゴチの事で、餌のついていない空針でもガツガツと喰いに来て簡単に釣れるからガッチョと言うのだと教えてくれた。
出典:
https://www.zukan-bouz.com/syu/%E3%83%8D%E3%82%BA%E3%83%9F%E3%82%B4%E3%83%81
俺は聞いた事を後悔した。
普通の奴なら、ちょっと高級な天ぷら屋でも行かない限りはメゴチを食う事なんかないだろう。
旅風情として面白がって、ガッチョの唐揚げとやらを喜んで食べるに違いない。
但し俺は釣り人なのだ。
メゴチがヌメヌメの粘液に覆われている事も、松葉下ろしという独特の捌き方をすると海老のようにプリプリした真っ白な身が姿を現す事も、そいつを天ぷらにしても刺身で食っても最高に美味い事を知っている。
そのメゴチを唐揚げだと?
あの繊細な味は天ぷらこそ至高、がっはっは士郎め!と俺の中の雄山が喚き始める。
だが、小心者の俺はもう引き返せない。
かくして、ガッチョ(メゴチ)の唐揚げをオーダーしたのだった。
運ばれてきたのがこれだ。
結論から言うと、悪くなかった。
唐揚げにしたのも、かつて大量のメゴチを捌く際に中骨を抜く手間を省くために骨ごと食えるようにする為でないかと思う。
塩をつけてカラッとした衣を噛みしめると、油の旨味とメゴチのほのかな旨味が舌の上で溶け合い、大衆的な居酒屋の雰囲気と合わせ技1本。
大阪の地酒と共に、俺の楽しい大阪の夜はふけていった。
なお、マスターが言うにはガッチョ(メゴチ)も近年は漁獲量の低下が続いているそうである。
豊かな大阪湾の復活を願って止まない。