子供の頃に、父方の祖父とは湖にもよく釣りに行った。
祖父は釣りを本格的にやっていた訳ではないので、今思えば結構適当な釣りだった。
狙いはいつもマスで、海釣りで使う投げ竿にオモリと針をつけただけのシンプルな仕掛け。
餌は黄色い人口餌(名前忘れた)。
おかっぱりで、エイヤ!と30メートルかそこら投げ込んでアタリを待つだけのシンプルな釣りである。
これが意外とよく釣れた。
祖父と兄と三人で、一日釣って5、6匹は30センチくらいのマスを釣っていたように思う。
爆釣できる訳では無いが、家族分の魚くらいはボチボチ釣れる、そんなイメージだ。
海無し県の大学に進学しても、この釣法は続けていた。
6ft.の短くて安いルアーロッド(3000円くらい)を使って、大学の横の川の深い所(水深2メートルはある)に行って、エイヤ!と仕掛けをぶっこんでニジマスを狙う。
ところが、どうした事か何回挑戦しても全く釣れない。
放流されてから釣り師の罠を逃れ続けてきた個体なので、警戒心も強いのだろう。
というか、ぶっこみという釣法自体、流れの無い湖ならともかく、そこそこ流れの強いそのポイントで行うのはナンセンスだった。
水底に漂う餌は風にはためく旗のように、さぞ不自然な動きをしていた事だろう。
そんな事は当時は分からなかったので、餌をとにかく色々と変えて挑戦を続けた。
件の人口餌、ミミズ、魚肉ソーセージ、サバの切り身。。。
サバの切り身を川釣りで使う奴は私の他にそうそういないと思う。
通りがかりのおっさんには
「兄ちゃん、マスだの鯉だのは兄ちゃんの餌よりもっと良いもん食ってるよ!」
なんて馬鹿にされながらも、俺は頑なにぶっこみスタイルを貫いた。
(学生時代で金が無かった為、他の釣りスタイルは金銭的にきつかった)
仕掛けをぶっこんだら、ルアーロッドの先に鈴をつけておいてテトラの上に寝っ転がってアタリを待つ。
タバコを吸って、携帯をいじって、時たま本を読んで、川沿いを通るおっさんや他の釣り師と会話をする。
そんな釣れない日々を繰り返している内、その時は突如として訪れた。
いつものように仕掛けをぶっこんでグダグダしていると、突如として
リンリンリン!!
と鈴が鳴り響く。
慌てて竿に飛びつき、やりとりを開始すると6ft.の安物ルアーロッドは大きく弧を描き、魚の抵抗が伝わってくる。
慎重にやりとりをしながら釣り上げたのは40センチくらいのニジマス。当時の私にとっては超大物である。
この時の餌は馬鹿にされ続けたサバの切り身。
水流でヒラヒラ舞う様子が、小魚が泳ぐようにニジマスには見えたのかもしれない。
すぐによく遊びに行っていたバイク屋のおじさんに電話をして報告した。
おじさんは営業中にも関わらず店を閉めて、バイクで飛んできてくれた。
アレコレ自慢話をした後は、ニジマスを友人のアパートに持ち込む。
ムニエルにして、酒を飲みながら二人で食べた。
牧歌的な時代であった。