俺が小学生の頃の話だ。
俺は父親に連れられ、漁港に釣りに来ていた。
短いパックロッドに天秤+ハリスの仕掛け。餌は青イソメでヘチへ仕掛けを落とし込んでいく。
大物は釣れないが、メジナやカワハギ、ネンブツダイ、カサゴ、チンチン(チヌっ子)と色々な魚が釣れて、子供には楽しい。
その堤防では、カゴカキダイも良く釣れた。
堤防のヘチからそっと頭を出して海面を眺めると、カゴカキダイが群れているのが見える。
上からでも見える鮮やかな黄色は楽しげで、いつもフラフラと浅い所に遊んでいる。
ここに仕掛けを落とし込むと、早速餌をついばみ始める。
だが、カワハギのような小さな口をしている為、針に掛けるのは案外難しい。
食べたか?と思ったらそっとロッドでアタリを聞いてみる、脈釣りの真似事をして針に掛ける。
美味しいらしいが、俺は食味を覚えていない。
その日は、カゴカキダイが数匹と、木っ端グレが少し釣れた状態だったが、父親のところで見知らぬオヤジがやってきて、何事かを話している。
俺は知り合いなのだと思ってあまり関わらずに釣りをしていたが、後から聞くとそのオヤジは新聞記者でその堤防の釣果を聞きに来たらしい。
翌日の新聞の釣り欄に、俺達の事は載っていた。
「〇〇さん、メジナ数匹」
カゴカキダイの事は書かれていなかった。
この漁港へは今でもたまにサビキ釣りに行く事があるが、不思議とカゴカキダイを見る事は無い。
あの妖精のような魚達はどこへ行ったのだろうか、と思う。
次こそは「美味しい」という噂を確かめようと思っているのに。