俺は素潜りポイントを開拓する為、ある海岸に来ていた。
俺はこういう時、夜明けと共に海に入る事が多い。
マズメ時が絡む、魚の活性が高い時間の方が色々な魚種が見れたりする事が多いからだ。
この時はヤス(銛)は持っておらず、水中カメラとナイフだけを持っていた。
ヤスを持たない状態で、何も持たずに素潜りしていると貝の密漁と間違われて色々と面倒くさい事になるからである。
そのポイントは砂地に大きな岩が点在しているポイントで、タイミングが合えばヒラメやマゴチも入ってきそうな所だった。
俺は底まで潜って海底を観察していると、珍しいものを見つけた。
手の平よりも少し大きいくらいのカワハギが1匹、海底の砂地で横になっているのである。
出典:https://www.zukan-bouz.com/syu/%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%83%8F%E3%82%AE
怪我をして死にかけているのかとも思ったが、見たところ外傷は無く、砂地をベットに気持ちよく眠っているようであった。
俺は優しい海中観察家からハンターに豹変した。
一旦浮上すると息を整え、肺に半分くらい空気を入れ再度潜行していく。
肺の空気を少なくしたのは、浮力を抑えなるべく違和感なくカワハギに近づく為である。
抜き身のダイビングナイフを逆手に持ち、俺はカワハギへ漂うように近づいていく。
もう少しで間合いに入る、という時にカワハギは半覚醒の状態となったのか背鰭をパタパタと動かし始め、ゆっくりと体を起こし始めた。
その刹那、一気に俺はダイビングナイフをカワハギに突き立てる。
ナイフの切っ先は過たずカワハギの魚体を貫き、下の砂地に突き刺さって止まった。
俺はカワハギを手で押さえると海底を蹴って浮上した。
浮上しながらカワハギを検めると、やはり外傷は無く寝ていただけのようだった。
俺は浮上し、岸に戻ると海岸でキャンプをしていた連中が火を起こして朝食の支度をしているところだった。
彼らにカワハギをくれてやろうと近づくと、何か気味の悪いものを見るような目で見られたが、最終的にはニコニコしてカワハギを貰ってくれた。
俺は彼らが淹れてくれたコーヒーを飲み、海岸を後にした。
実は同じような話を素潜り漁師だった祖父に聞いた事があった。
その記憶があった為、瞬時にナイフでカワハギを獲ろうと思い立ったのである。
その話はまた別途・・・。