春が賑やかさを増す頃、俺の実家の横の小川にはカワセミが飛ぶようになる。
出典:
https://gogen-yurai.jp/kawasemi/
そのスカイブルーの宝石は、弾丸のようなスピードで川の上を駆け抜ける為、その顔を伺い知る事は容易ではない。
小学生の俺はいつも、その姿を岸から見とれているだけだった。
ある日、地域のお祭りがあり、俺は一足先に来た祖父を探していた。
祖父は顔を真っ赤にし、本部テントでじいさん達と酒を飲んでいる。
じいさん達にカワセミの話をすると、なんと昔(少なくとも50年以上前か)は素手でカワセミを捕まえていたというのである。
捕まえ方が面白い。
小川の真ん中に手ぶらで立ち、正面から突っ込んでくるカワセミを野球のボールを獲るが如く手掴みで捕まえるのだという。
まるで「銀河鉄道の夜」に出てくる鳥捕りである。
俺は興奮し、祭りをほったらかして帰宅すると早速、長靴を履いて川に立ち、カワセミを待ち構えた。
しかし、待てども待てども飛んでくるのはオニヤンマばかりで、俺は疲れて家に戻る。
これを3日くらい繰り返し、俺の心はカワセミ獲りから離れていった。
現在は地元を離れて首都圏の自宅に住んでいるが、地域の努力もあり首都圏でも河川の清浄化が進んでいるそうである。
それに伴い、オイカワなり、タガメなり、戻ってきた生物の一つにカワセミがおり、週末になると多くの人がカメラを川岸で構えてカワセミの飛来を待ち構えている。
俺はそれを見ながら、カワセミを獲ろうとした昔を思い出す。