グランダー武蔵がアニメ放映され、バス釣りが人気を博していた小学生の頃、パチンコ屋の裏の野池でブラックバスが釣れるという話を聞いた。
俺は早速、釣り竿を担いで釣りに行った。
グランダー武蔵の人気があったと言っても、俺の仕掛けは餌釣りである。
俺は小学生ながらに、パンで小魚を釣って泳がせ釣りをすれば大きなバスが釣れるに違いないと考え、玉ウキにガン玉とハリスを付けた仕掛けに餌は食パンを1枚持って行った。
早速、釣り場について釣りを始めるが、その池の小魚たちには釣り針が大きすぎたようで、あっという間に餌だけついばまれ、一向に釣れない。
ただ小魚に餌をくれているだけの状況にしびれを切らした俺は、考えを巡らせていた。
俺はバイブルであった釣りの本で、様々な魚種の釣り方は一通り頭に入っていたので、バス釣りには昆虫を模したルアーがある事は知っていた。
これは逆に言えば、昆虫を餌にすればバスは釣れるという事である。
周りを見渡すと、トンボが何匹か飛び交っている。
俺は手頃な木の枝を拾うと、草に止まっているトンボを叩き落とし針に掛けた。
投げてみるとトンボの浮力で仕掛けが沈まなかったが、水面に浮かんだ瀕死のトンボを見るや、ブルーギルが飛びついてきてあっという間に釣れてしまった。
ブルーギルを釣ったのは初めてだったが、鯛のような体系に、肉食魚らしい精悍な顔立ちは子供心にカッコよく思ったのを覚えている。
出典:
https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list/L-sa-05.html
この釣法を数回繰り返し、俺は5匹程のギルを飼育しようと家に持ち帰った。
※当時は外来生物法なんてものは無い。
しかし、祖父から「こんな汚い魚を飼えるか」と叱られ、翌日には池に戻す事になった。
ブルーギル達には、俺の水槽で1泊してもらったが、俺は時が経つのも忘れて彼らの横顔を眺めていた。
その池は何年かして、周りをフェンスで覆われて釣りが出来なくなってしまった。
フェンスが破られた跡があったので、未だに釣りをしている不届者はいるのだろうが、俺はもうそこで竿を出す事は無い。